いのちの贈り物をありがとう。 ・・・腎臓移植を受けて・・・

いのちの贈り物をありがとう。

・・・腎臓移植を受けて・・・
   

(平成20.7某会社で体験発表された内容です。)
                                  腎移植者 Y・K

 私は、腎臓の病気で透析治療を4年半受けた後、お亡くなりになられた方から腎臓のご提供を受けて移植し、今年で14年目に入ります。
 ご提供をして下さった方に心より感謝しております。
 最近、生命保険のパンフレットなどを目にしておりましたら、自分の経験からか「移植手術が必要になったとき」とか、高度先進医療の項目の中に「移植」などという文字が目につくようになりました。何時、自分が、大切な家族が、移植を必要とする病気になるとも限らない。「もしもの備え」として、命を救う移植医療への関心が高まり、サポート体制が広がったのかな・・などと自分なりに思っておりました。私も、自分が病気になるとは思ってもおりませんでしたが、元気なときに入っていた保険に随分助けられました。
 この度、思わぬ私のちょっとしたつぶやきが形になって、私の体験を聴講してくださる機会に恵まれることになりました。不慣れですが、私の透析・移植の体験を一生懸命お話させていただきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。

腎臓の働きのこと
 みなさま、おしっこ毎日出ていますか?普通のことですが、それは健康な腎臓の大きな恵みです。
 腎臓は、空豆の形をしていて、背骨の両側に一個ずつあります。握り拳くらいの大きさです。正常な腎臓の働きは、体に溜まった余分な老廃物や水分を尿(おしっこ)として取り除いたり、血圧の調整などをします。しかし、腎機能が低下すると血尿や蛋白が出現したり、高血圧や貧血が進んだり、進行して、悪化するとクレアチニンという腎機能の状態を示す血液検査の数値が上昇してきます。おしっこも出なくなり、尿毒症状が出始めると、命に関わりますので腎臓専門医のサポートを受けてタイミングよく透析を始めることが必要になります。

 いのちの贈り物をありがとう_1.jpgのサムネイル画像腎臓病の経過と透析治療のこと
 私の腎臓に異常の兆候が出始めたのは、25歳前後のことです。透析を開始する約10年前です。風邪の高熱後の血尿から始まりました。病院で受診して、突発性腎出血と言われ、その時は直ぐ血尿も止まりました。数年後、再発。慢性糸球体腎炎の疑いと言われました。その後、自覚症状がないまま静かに進行し、長引いた風邪や疲労から一気に弱かった腎臓の機能が
低下、尿毒症状(高血圧、吐き気、筋肉のつり、貧血、息切れ)が出て透析治療を宣告されました。慢性腎不全でした。宣告されたときは、30歳代で夢もありましたので、未来図が消えたようで、正直、随分落ち込みました。
 ドクターや透析スタッフの方、また、透析の先輩患者さん、家族の励ましを受けて、生きる勇気を取り戻すことができました。
 現在、全国で27万人(山口県約3,000人)の方が透析治療を受けており、毎年1万人ずつ増えています。糖尿病から透析を受けられる方が腎臓病を抜いて1位になりました。
 慢性腎不全治療法には、移植治療、腹膜・血液透析治療があります。私は、始めは血液透析治療を選びました。老廃物の混じった汚れた血液を腕の血管に太い針を刺して体外へ引き出し、人工腎臓という透析器を使って洗い、きれいにして体内へ戻します。これを、4~5時間繰り返しました。
 透析技術は日々進歩し、多くの方が社会復帰できる素晴らしい治療です。しかし、健康な腎臓の10%しか代行できないと言われています。後は、自己管理でカバーしてゆかねばなりません。私も週3回通院が始まりました。尿が出ないため1日5~600ccしか水分が取れず、塩分、生野菜、果物なども制限がありました。頑張っておりましたが、時々、守れないときや辛いときもあり、頑張れないときもありました。

移植への思い
  そんな時、父が自分の腎臓の一つを私にと生体腎移植の話を持ち出してくれました。その他の家族は事情で提供は無理でした。生体腎移植とは、肉親間、夫婦間での移植のことで、献腎移植とは、お亡くなりになった方からのご提供による移植のことです。
  日本では、残念ながら死後の提供者が少ないことや、緊急的な理由から生体腎移植が8割を占めています。私は、父の申し出が嬉しかったです。父がドナーとして適するかどうかの検査が始まりました。ドナーとは、臓器を提供する人です。レシピエントとは、臓器の提供を受ける人や移植を希望して待機している人です。
 しかし、残念なことに父とは医学的理由で移植には結びつきませんでした。生体腎移植の場合は、ドナーの健康状態がとても重視されます。「私の場合も120%自信が持てないとしません。」とドクターから言われました。このように、移植をしたくても断念せざるを得ない患者さんがたくさんおられます。 父は、私を助けてやれないという思いで随分落ち込んでおりました。私も最初は、ガーンとショックを受け夢の積み木が崩れ落ちていくようでした。しかし、術後の父の残された一つの腎機能のことや70歳近い父の体に、メスを入れることへの不安も隠せませんでしたので、がっかりの中にも、どこかホットする気持ちもあり複雑でした。私は、透析すれば生きていけると心に思い直した頃、透析、移植のドクターから「あきらめずに献腎移植への希望を持つように」と、移植希望登録を勧められました。登録したことは、どこか、私の希望となっていました。

ひまわり.jpg腎臓移植の連絡
 移植の連絡があったのは、登録から4年経った頃でした。当時、私は広島に住んでいました。
 その日は、夏の暑い日で、透析日でした。透析後、不均衡症候群で血圧が下がり、目の前が真っ暗になり、生汗が出てしばらく透析ベットから起き上がれませんでした。やっと、落ち着いて、ふらふらで帰宅し、横になった直後、運命の一本の電話が鳴ったのです。
  「お亡くなりになられた方から腎臓のご提供があります。血液検査の結果、あなたが適合リストにあがりました。是非、ご厚志を受けてください。」とのことでした。突然の電話にパクパク心臓が鳴り出し、動揺しました。考え決定するまで5分しかありませんでした。
 その年、1995年は、日本で唯一の機関、日本臓器移植ネットワーク(現在の(社)日本臓器移植ネットワーク)が発足したばかりでした。
 信じられない幸運が起こっていることに有り難いと思う反面、ドナーの死やご家族の今を思うと戸惑いはありました。しかし、ご家族の方は、深いお悲しみの中、患者に元気を取り戻すチャンスを贈ってくださるのです。自分のためにも、登録して待っておられる方のためにも、真心とご意志を感謝してお受けし、元気にならねばと気持ちを切り替えました。
 私たちレシピエントは、ご提供しくださる方の優しいお気持ちや善意に沿わせていただき、移植を受けることができます。
 心の中で、両手を合わし、決断すると前に向かって一歩を踏み出しました。移植施設までの道のり、決意とともにドナーへの感謝でいっぱいでした。

移植手術
  移植施設は、現在の国立病院機構岡山医療センターでした。到着すると移植治療の主治医の先生が「ご提供された腎臓はとても良い状態です。これから一緒に頑張りましょう。」と勇気づけてくださいました。術前のインフォームドコンセントや必要な検査が終わるとあれよあれよという間に手術室に運ばれました。私の場合、移植の連絡を受けて手術室に入るまで約10時間でした。
 手術は約5時間でした。目が覚めたときは尿が出ていました。ドナーの方の腎臓が移植される場所は、おなかの中の腸骨下というところです。ドナーの方の二つの腎臓は、一つずつ、二人のレシピエントに移植され、再び命の鼓動を始めます。私もおなかの中で甦ろうとするドナーの方の命の躍動を心と体で感じました。長年出なかった尿が、管を伝わってポトリ、ポトリ落ちていました。その力強さに信じられないことが起こっていることの感動と感謝で全身が震えるようでした。この瞬間、私はドナーの方に支えられて透析治療から離れることができました。

移植後変わったこと
 術後、とても厳しかった水分制限も全くなくなりました。コップ一杯の水をゴクン、ゴクンと飲んだとき、自然と涙が溢れてきました。普通のこと、当たり前のことがこんなにも有り難いことかと健康な腎臓の恵みに感謝しました。
 食事制限も緩やかになり、貧血も治り、血圧も安定してきました。どんどん変わってゆく自分を感じ、全身で移植医療の威力、素晴らしさを感じました。ご家族に直ぐにでも喜びを伝えたかったのですが、無償の善意の贈り物ということでお互い名乗り会えないことになっていましたのでお手紙を書かせていただきました。
ダリア.jpg 現在、4週間に一度、定期的に移植病院に通院し、検尿、血液検査などを受けています。移植後は免疫抑制剤を飲みますので、免疫が少し下がります。手洗い、うがいをして感染予防をしています。移植しても無理や無茶ができる体になったということではないので気をつけます。
 医療費は、透析治療に比べ4~5分の1になりました。全国で約12,000名の透析患者さんが移植を希望して待っておられますので、全員の希望が叶うと国の医療費もかなり削減できます。手術費については、小腸移植は全額自己負担で、生体肺移植は、厚生労働省の承認を受けた最先端の医療を持つ大学病院などで実施される先進医療の適用となりますが、実績が増えてゆくと公的保険適用になると思います。
 移植後、私は主婦業の傍ら、県に1カ所設置されているやまぐち角膜・腎臓等複合バンクや患者さんの行事などに参加し、臓器提供意思表示カードの配布、説明、体験談など移植医療への関心を持ってもらおうと普及開発活動に協力したり、地域の福祉ボランティアの活動に参加させてもらい過ごしました。私は、広島市の要約筆記奉仕員、要約筆記ボランティアとして10年間活動をしてきました。一つ一つ学ぶことが楽しく世界が広がるようでした。ここ数年は、夫の親、実家の親の世話、介護、看取りが続きましたが、両親を看取れたことは本当に幸せなことでした。
 移植医療は、新たな自己管理や多少のリスクもあります。しかし、重い患者さんの命が救われて、健康が取り戻せ、日常生活の質も向上するなど希望の持てる医療と思います。移植後、仕事に復帰された方、主婦業が元気にできるようになられた方、学校に行けるようになった子供たち、スポーツを毎日している方、再移植にチャレンジされた方、みんな、ドナーに感謝しておられます。医学が進歩して投薬などで治療できるようになってほしいと思いますが、移植をしたいとき、緊急的に必要になったとき、その環境が日本でももっと整ってほしいと思います。

臓器提供意思表示カードについて
 今、移植を待っておられる患者さんの中には、心臓、肺、肝臓、膵臓、角膜などの病気の方もおられます。心臓停止からの腎臓と角膜の提供は、本人の意思表示が無い場合でもご家族の同意で提供することができますが、心臓、肺は脳死からしか提供できません。脳死からの提供の場合は、臓器提供意思表示カードへの記入や、書面による本人の意思表示が必要です。最終的には、ご家族の同意が必要になりますのでご家族に自分の気持ちを伝えておくことが必要です。提供については、法律(臓器移植法)で定められていて、法律を遵守して移植が行われます。臓器提供意思表示カードとは、死後の臓器提供について、提供したい、したくない自分の意志を表示しておくカードで、登録するカードと違って自分で携帯しておくカードです。この他、免許証、健康保険証に貼ることができるシールもあります。記載は、理解できれば何歳からでも記入しておくことができますが15歳から有効になります。市町村担当窓口、病院、薬局、郵便局、保健センター、コンビニ、さらに、協力企業などに置いてあります。
 日本では、15歳未満の子供は脳死からの提供が法律で禁止されているため、心臓や肺移植を希望する小さな子供たちは海外に渡らなければなりません。海外の移植も施設によっては受け入れを狭め、閉じたりしていることもあってとても厳しい状況です。また、募金活動で海外に渡る子供たちは極一部に限られています。移植を待ちながら国内で亡くなるお子さんがたくさんおられるのが現状です。子供たちは、本当は国内で移植を受けたいのです。
 移植を待つ子供たちは、「ラクな息がしたい」「お水をゴクン、ゴクンと飲みたい」「お友達と遊びたい」「学校へ行きたい」「お父さん、お母さんと一緒にご飯がたべたい」、ただ、それだけが願いなのです。健康な子供たちにとっては普通のことですが、それが移植を待つ子供たちのささやかな願いなのです。
 今年こそ、この子供の命の問題を国会で議論していただき法律改正に向けて前進してほしいと思います。
 私事ですが、母の死後、意志を尊重し、角膜を提供しました。臓器意思表示カードにその意志を記載しておりました。私たち家族は、臓器提供意思表示カードに記載していた父、人として最後の贈り物をした母の気持ちに感謝し、また、父母を誇りに思っています。

お願いしたいこと
 私の経験、失敗、学びから思いますことを述べさせていただきます。

  1. 健康なうちに自己管理をしてゆくこと。
  2. 体調に異変があったら病院で受診すること。
  3. 自分や家族の健康を守るためにいろいろな病気に関心を持つこと。
  4. 学校、会社、地域で検尿、血液検査が実施されること。
  5. 透析、移植の患者さんは、身体障害者福祉法で内部の障害者として認定されています。見えない(病気)障害のため理解してもらいにくい面もあります。他の障害と併せて内部障害にもご理解をいただきたいこと。
  6. 臓器提供意思表示カードを手にし、読んでいただき、携帯してほしいこと。
  7. 企業は可能な限り、命や健康をサポートする社会貢献に是非参加をいただきたいこと。(臓器提供意思表示カードを広める協力や勉強会の開催など)

感謝
 私は、移植後14年目を迎えました。ドナーの方は60歳であられたということだけ聞いております。今、ご存命でおられたら74歳。でも、私のおなかの中で今日も生き続けておられます。いつかはお別れする日が来るでしょうが、ご提供してくださった方の気持ちを大切に一日でも長くご一緒に生きていきたいと思っています。
 私は、今日も心から思っています。 
 ありがとうドナーさん、ご家族の皆さま。
 「いのちの贈り物を本当に、本当にありがとう」と。


2011年9月22日 16:35 | カテゴリー: 提供者・移植者の声
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