いのちの輝き ~全国移植者スポーツ大会~

いのちの輝き ~全国移植者スポーツ大会~

腎移植者  H・K

 皆さんは腎臓移植者が全力疾走する姿を、心臓・肝臓移植者が力いっぱい泳ぎ、跳ぶ姿を想像できるでしょうか。その姿は、病気で苦しんでいた私に、勇気と希望を与えてくれました。
 現在、日本には1万人以上の臓器移植者がいます。病気により心臓や肝臓、腎臓等の臓器の機能を失った方々の唯一の治療法、それが臓器移植です。しかし、臓器移植には、ドナー(臓器の提供者)の存在が不可欠です。生前臓器提供の意思を示され、脳死後、または心停止後に臓器を提供されたドナー。家族を救うため、自らの腎臓や肝臓の一部を提供されたドナー(生体間移植)。いずれも、ドナーと、そのご家族の尊い意志と決断により、私たち移植者はいのちを救われました。移植者の多くは、移植手術によって病気を克服し、健康な方とほとんどかわらない生活を取り戻しています。そして、念願の社会復帰を果たしています。私もそんな移植者の一人です。
いのちの輝き_1.jpgのサムネイル画像 私は20歳の時、体調を崩し検査入院をした病院で、慢性腎不全と診断されました。腎臓は病気等でダメージを受けると、その機能を回復することはできません。腎機能を失う速度をできるだけ遅くするための保存療法を行っていましたが、3年後、腎臓はついにその機能を失い、人工透析を受けなければ生きられなくなりました。若く未熟な私にとって、それはとても辛い現実でした。週3回、1回4時間の人工透析、厳しい食事制限、自由を失っていく体。運が悪かったと全てを諦めることで、壊れそうな心を必死にごまかしました。苦痛や恐怖に耐え、病気に負けまいと必死にもがき続けましたが、いつしか疲れ果て、私の生きる気力は徐々に失われていきました。そんな私を見かねた母が、片方の腎臓と共に新しい未来をくれました。「親として当たり前のことをするだけ。」手術前、そう言ってくれた母の言葉に、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。あれから11年、家族や友人を始め、多くの方々に支えられ、私と母の腎臓は、今日も元気に生きています。
 そんな私が移植後ライフワークとしているのが、臓器移植の啓発活動と、移植者スポーツ大会への参加です。救われたいのちを、かつての私のように病気で苦しむ方のために役立てたい、そんな思いから取り組んでいます。
 全国移植者スポーツ大会は、毎年全国各地で巡回開催されています。昨年は10月に福岡県春日市で開催されました。この大会は、他のスポーツ大会とは違い、スポーツを通じて、いのちの贈り物を与えてくださったドナーとドナーのご家族への感謝の気持ちを示し、また、生きる歓びを表現することを目的としています。そして、一般の方々に臓器移植への理解を広めることも大切な目的の1つです。
 今回の大会には、全国から100名以上の移植者とそのご家族、そして、ドナーのご家族が参加しました。アメリカやベトナムなど、海外からの参加もありました。爽やかな秋晴れのもと、水泳やテニス、バドミントン、陸上競技等のスポーツを楽しみました。私は陸上競技に出場しました。
 競技のレベルは決して高くはありません。しかし、参加した移植者は、スポーツができる喜びをと感謝の気持ちを体いっぱいに表現しながら、精一杯競技をしています。彼らはもし移植を受けていなかったら、ほとんどの方はスポーツをすることはできませんでした。いのちの灯火が消えていたかもしれません。ドナーとそのご家族の尊い意思と決断のおかげで、スポーツができるまでに健康を取り戻すことができたのです。彼らは、いのちの大切さを、人の優しさを誰よりも知るアスリートなのです。
 私は毎年この大会に参加して、日常の中で忘れかけていた大切な気持ちを思い出させてもらっています。腎臓の移植を受け、新しい人生を授かり、いのちとはこんなにも尊いものなのかと実感したあの時の気持ち。病気の私を支え、励ましてくれたみんなの優しさ、温かさ。感謝と喜び。この思いは私の一生の宝物です。
 アメリカから参加した肺移植者の女性が、アメリカに伝わることわざを私に教えてくれました。「この世界にとって、あなたはちっぽけな存在かもしれない。でも、あなたを愛する全ての人にとって、あなたはかけがえのない唯一の存在なのです。あなたがそのことに気付いたとき、あなたは多くの人を救うことができるでしょう。かけがえのない誰かのために、あなたは優しくなることができるのだから。」
いのちの輝き_2.jpgのサムネイル画像  ドナーはきっと、この言葉のような想いを持って、私たちを救ってくれたのでしょう。無償の優しさを、純粋な優しさを、このことわざは私たちに教えてくれています。
 臓器移植法の改正により、移植への壁は低くなりました。あとは人々の意識を高めることが必要です。どんな形でも構いません。できるだけ多くの人が、臓器移植に関心を持ってくれることを私は願っています。あなたの優しさが、誰かを救うかもしれません。そして、まだ見ぬ誰かの優しさが、あなたと、あなたのかけがえのない人を救うかもしれないのです。
 優しさがいのちを救う、いのちをつなぐ、それが移植医療なのです。
 

 


2011年9月22日 15:25 | カテゴリー: 提供者・移植者の声
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